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医師法、薬剤師法などにおいて作成と保管が定められている文書 解説

フェーズ2(完全講義) Part 1/全体構成 - Part 0:前提知識の復習(薬学基礎11分野と法令の交差点)

本出力は、フェーズ2(完全講義)の「Part 0:前提知識の復習」を扱います。 本テーマは「法令・制度(文書の作成と保管)」ですが、「なぜその文書を、その期間保存しなければならないのか?」という法的根拠の裏には、対象となる医薬品や物質の化学的性質、薬理作用、感染リスクなどの科学的背景が必ず存在します。 ここでは、九州大学薬学部合格レベルの薬学基礎11分野の知識を総動員し、法令の背景にある科学的根拠を完全に網羅します。


Part 0:前提知識の復習(高校〜九州大学合格レベル)

【有機化学】毒物・劇物および麻薬・覚醒剤の化学構造と規制の根拠

■ わかりやすい解説 法令で厳格な記録と保管が求められる「毒物・劇物」や「麻薬・覚醒剤」は、その有機化学的構造に由来する強い生体毒性や中枢作用を持っています。 例えば、覚醒剤であるメタンフェタミンは、フェネチルアミン骨格(ベンゼン環にエチルアミンが結合した構造)を持ちます。この構造は、生体内の神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンと構造が類似しているため、脳内のトランスポーターに容易に結合します。 また、毒物及び劇物取締法(毒劇法)で規制されるシアン化水素(HCN)や有機リン系化合物は、特有の官能基(シアノ基やリン酸エステル結合)を持ちます。有機リン系化合物は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のセリン残基のヒドロキシ基(-OH)をリン酸化し、不可逆的に酵素を阻害します。このような強力な共有結合を形成する化学的性質があるからこそ、譲受書の5年間保存という極めて厳格な管理が法的に求められるのです。

■ 暗記ポイント

  • フェネチルアミン骨格:覚醒剤(アンフェタミン類)の基本骨格。生体内アミンと類似し中枢移行性が高い。
  • 有機リン系化合物の反応:AChEのセリン残基を不可逆的にリン酸化する(共有結合の形成)。
  • ★重要:強力な化学反応性(共有結合形成など)を持つ物質ほど、生体毒性が高く、法的な記録保存期間が長く設定される傾向がある。

■ 語呂合わせ・記憶術 🧠 語呂:「有機リンは焦ってリン酸化」 意味:有機リン系化合物は、アセチルコリンエステラーゼ(焦って)をリン酸化して不可逆的に阻害する。 出典:広く使われている語呂

【生化学Ⅰ・Ⅱ】特定生物由来製品とプリオン・シグナル伝達の基礎

■ わかりやすい解説 薬機法において、特定生物由来製品(血液製剤など)の記録は「20年間」という異例の長期間保存が義務付けられています。この理由は生化学的に説明できます。 生体分子であるタンパク質は、通常は正しい立体構造(フォールディング)をとって機能しますが、異常な折り畳み構造を持つタンパク質(異常プリオンタンパク質)が体内に侵入すると、正常なタンパク質を次々と異常型に変換してしまいます(クロイツフェルト・ヤコブ病など)。この異常プリオンは、核酸(DNA/RNA)を持たないにもかかわらず感染性を持ち、潜伏期間が10〜20年と極めて長いのが特徴です。 また、麻薬や向精神薬は、細胞膜上のGタンパク質共役型受容体(GPCR)に結合し、細胞内のセカンドメッセンジャー(cAMPなど)の濃度を変化させるシグナル伝達経路(生化学Ⅱ)を強力に修飾します。この不可逆的な神経回路の変化(依存性の形成)を追跡するため、麻薬帳簿等の厳格な保存が求められます。

■ 暗記ポイント

  • 異常プリオンタンパク質:核酸を持たず、タンパク質の立体構造異常のみで感染・伝播する。
  • 潜伏期間の長期化:プリオン病や一部のウイルス感染症は発症までに10〜20年を要する。
  • ★重要:特定生物由来製品の「20年保存」は、この生化学的な「長期間の潜伏リスク(プリオン等)」を遡って調査(トレース)するために設定されている。

【薬理学】麻薬・向精神薬の依存性形成機序と受容体理論

■ わかりやすい解説 麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)で記録の保存が義務付けられている薬剤は、薬理学的に「精神依存」および「身体依存」を形成する特徴があります。 オピオイド鎮痛薬(モルヒネなど)は、中枢神経系のμ(ミュー)オピオイド受容体にアゴニスト(作動薬)として結合します。これにより、下行性疼痛抑制系の賦活化をもたらす一方で、中脳辺縁系のドパミン神経系(報酬系)を活性化し、強烈な精神依存を引き起こします。 受容体理論において、長期間のアゴニスト曝露は受容体のダウンレギュレーション(数の減少)や脱感作(反応性の低下)を引き起こします。これが「耐性」の正体であり、用量が次第に増加していく原因となります。このような薬理学的な危険性があるため、麻薬帳簿は最終記載日から2年間、麻薬処方箋も厳重に保管し、不正使用や乱用を監視する法的仕組みが構築されています。

■ 暗記ポイント

  • μ(ミュー)オピオイド受容体:モルヒネなどの主たる作用点。鎮痛作用と同時に呼吸抑制、依存性を引き起こす。
  • 報酬系(中脳辺縁系ドパミン神経系):精神依存の形成に深く関与する神経回路。
  • ★重要:受容体のダウンレギュレーションによる「耐性」と「依存」の形成が、麻薬・向精神薬の厳格な法的管理(帳簿の2年保存等)の根拠である。

【物理化学】毒物・劇物の保管要件と物理化学的性質

■ わかりやすい解説 毒物や劇物の管理において、物理化学的性質(揮発性、引火性、分配係数など)の理解は不可欠です。 例えば、揮発性の高い毒物(例:シアン化水素)は、常温で気化しやすく、吸入毒性を発揮します。物理化学における「蒸気圧」が高い物質ほど、密閉保管と厳格な在庫管理が必要です。 また、分配係数(LogP)が高い(疎水性が高い)物質は、細胞膜(脂質二重層)を容易に通過し、中枢神経系や脂肪組織に蓄積しやすくなります。このような物理化学的特性を持つ物質は、微量でも重篤な中毒を引き起こすため、毒劇法において譲受書の5年間保存という、薬機法の毒薬(2年保存)よりも長い保存期間が設定され、流通経路の厳格な追跡が求められています。

■ 暗記ポイント

  • 蒸気圧と揮発性:蒸気圧が高い物質は吸入リスクが高く、保管設備の要件が厳しくなる。
  • 分配係数(LogP):疎水性の指標。高いほど血液脳関門(BBB)を通過しやすく、中枢毒性が現れやすい。
  • ★重要:毒物・劇物の「譲受書5年保存」は、環境流出時や犯罪使用時に、その物理化学的特性による広範な被害を遡及調査するために必要である。

【分析化学】薬毒物分析と記録の証拠能力

■ わかりやすい解説 法令で定められた文書(カルテ、処方箋、譲受書など)は、医療過誤や薬物犯罪が発生した際、分析化学的な鑑定結果と照合される「法的証拠」となります。 分析化学において、生体試料(血液、尿など)から薬毒物を検出するためには、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)や液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)が用いられます。これらの機器分析により、極微量の薬物代謝物が同定されます。 しかし、体内の薬物は代謝・排泄されるため、時間が経過すると検出できなくなります。その際、「いつ、誰に、どの薬が処方・譲渡されたか」を示す処方箋(3年保存)や調剤録(3年保存)、麻薬帳簿(2年保存)の記録が、分析化学的データと結びつくことで初めて、完全な立証が可能となります。

■ 暗記ポイント

  • GC-MS / LC-MS/MS:薬毒物分析の主力となる高感度な質量分析法。
  • 記録の証拠能力:分析化学的データ(客観的指標)と、法令に基づく保存文書(処方箋・調剤録等)が揃うことで法的証拠が成立する。

【薬剤・薬物動態学】毒薬・劇薬の体内動態と致死量

■ わかりやすい解説 薬機法において「毒薬」「劇薬」に指定される基準は、薬剤・薬物動態学(PK)および毒性学のパラメータである「半数致死量(LD50)」に基づいています。 毒薬は、経口投与でのLD50が30mg/kg以下(極めて少量で致死に至る)の医薬品などが該当します。これらの薬剤は、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)のADMEプロセスにおいて、治療域(有効血中濃度と中毒域の幅)が極めて狭い(TDM対象薬など)という特徴があります。 薬物速度論(キネティクス)的に、わずかな過量投与が即座に致死的中毒を引き起こすため、薬機法では毒薬・劇薬の譲受書の作成と「2年間」の保存を義務付け、流通の厳格な管理を行っています。

■ 暗記ポイント

  • 半数致死量(LD50):投与された動物の半数が死亡する用量。毒薬・劇薬の指定基準となる。
  • 治療域の狭さ:有効量と中毒量が近接しているため、厳格な在庫・流通管理が必要。
  • ★重要:薬機法上の毒薬・劇薬の譲受書保存期間は「2年」である(毒劇法の5年と混同しないこと)。

【微生物学・免疫学】特定生物由来製品と感染症トレース

■ わかりやすい解説 特定生物由来製品(ヒトの血液や組織に由来する医薬品)の記録を「20年間」保存する最大の理由は、微生物学的な未知のウイルス感染と、免疫学的な遅発性反応の追跡です。 微生物学において、C型肝炎ウイルス(HCV)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのRNAウイルスは、感染から発症までに数年〜十数年の無症候期(キャリア状態)が存在します。過去の薬害エイズ事件や薬害肝炎事件では、血液製剤を介してこれらのウイルスが伝播しました。 また免疫学的には、輸血後移植片対宿主病(PT-GVHD)のように、供血者のリンパ球が受血者の組織を攻撃する重篤な免疫反応のリスクもあります。 これらの微生物学的・免疫学的リスクは、投与直後には判明せず、数十年後に発覚することがあるため、使用日、患者氏名、ロット番号などの記録を「20年間」保存し、遡及調査(トレースバック)を可能にする法的義務が課せられています。

■ 暗記ポイント

  • HCV・HIV:血液媒介性のRNAウイルス。長期間の潜伏期を持つ。
  • 遡及調査(トレースバック):感染症発覚時に、過去に同じロットの製剤を使用した患者を特定する仕組み。
  • ★重要:特定生物由来製品の記録保存期間「20年」は、微生物の長期潜伏期間に対応するための制度である。

【漢方処方学】毒薬・劇薬に指定される生薬

■ わかりやすい解説 漢方医学で用いられる生薬の中にも、強力な薬理作用を持ち、薬機法上の「毒薬」や「劇薬」に指定されているものがあります。 代表的なものが「附子(ブシ)」です。附子はキンポウゲ科のトリカブトの塊根であり、主成分のアコニチンは強力な電位依存性ナトリウムチャネル活性化作用を持ち、不整脈や呼吸麻痺を引き起こす猛毒です。漢方処方学では、これを修治(加熱処理など)して毒性を減弱させ、新陳代謝を賦活する「温薬」として用います。 しかし、修治された加工ブシであっても劇薬に指定されている場合があり、これらを取り扱う薬局・医療機関では、劇薬としての譲受書の保管(2年)などの法的規制を遵守する必要があります。

■ 暗記ポイント

  • 附子(ブシ):トリカブト由来。主成分アコニチン(Naチャネル活性化)。
  • 修治(しゅうじ):生薬の毒性を減らし、薬効を引き出すための加工処理。
  • ★重要:漢方薬・生薬であっても、毒薬・劇薬に該当する場合は薬機法に基づく譲受書の保存(2年)が必要である。

【統計学】カルテ・処方箋の保存と疫学調査への活用

■ わかりやすい解説 医師法で「5年」保存が義務付けられている診療録(カルテ)や、薬剤師法で「3年」保存が義務付けられている処方箋・調剤録は、個別の患者治療だけでなく、統計学的な臨床研究や疫学調査の重要なビッグデータとなります。 統計学において、過去のカルテを遡って調査する「後ろ向きコホート研究」や「ケースコントロール研究」を実施する際、これらの保存文書が一次データ(リアルワールドデータ:RWD)となります。 電子カルテの普及により、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」では、電子保存の三原則(真正性・見読性・保存性)が定められました。データが改ざんされず(真正性)、長期間にわたり統計解析可能な状態で維持されること(保存性)が、医学・薬学の発展に不可欠だからです。

■ 暗記ポイント

  • 後ろ向きコホート研究:過去の診療記録(カルテ等)を用いて、要因と疾患の関連を統計学的に解析する手法。
  • 電子保存の三原則:真正性(改ざん防止)、見読性(肉眼で読める)、保存性(法令期間の復元可能性)。
  • ★重要:診療録(5年)、処方箋・調剤録(3年)の保存は、患者保護だけでなく、統計学的な医療データ基盤の維持という目的も持っている。

【参照URL明記(Part 0限定)】

  • サイト名:役に立つ薬の情報〜専門薬学
  • 該当ページ:有機化学の基礎、受容体とシグナル伝達、薬物動態学(ADME)、微生物学(ウイルス感染)
  • URL:https://kusuri-jouhou.com/
  • サイト名:管理薬剤師のための薬学・医療情報サイト
  • 該当ページ:毒薬・劇薬の管理、麻薬の取り扱い、特定生物由来製品の管理
  • URL:https://kanri.nkdesk.com/

「フェーズ2(完全講義) Part 1/全体構成 - Part 0:前提知識の復習 は完了しました。 次の出力で、Part 1〜4(法令・制度の核心解説とマトリクス)を出力します。 ユーザーの指示(「次」など)があり次第、Part 2/全体構成 に進みます。」

フェーズ2(完全講義) Part 2/全体構成 - Part 1〜4:法令・制度の核心解説とマトリクス

本出力は、フェーズ2(完全講義)の後半(Part 1〜Part 4)です。 Part 0で学んだ科学的背景(なぜその物質を管理するのか)をベースに、実際の法令・制度における「保存期間」「根拠法」「実務上の優先関係」を完全にマスターします。


【Part 1:法的根拠と保存期間の「作用機序」】

■ わかりやすい解説 法令が定める文書の保存期間は、ランダムに決められているわけではありません。それぞれの法律が持つ「目的(作用機序)」に応じて、必要な期間が設定されています。

1. 医師法・歯科医師法(患者の生命を守る基本法) 医師法は、医療の根幹をなす法律です。患者の病歴や治療経過を記録した「診療録(カルテ)」は、将来の治療や医療過誤の検証において最も重要な一次情報となります。そのため、完結の日から「5年間」という長期間の保存が義務付けられています。

2. 薬剤師法(調剤の責任を明確にする法) 薬剤師法は、薬剤師の業務と責任を定めた法律です。薬剤師が調剤を行った証拠である「処方箋(調剤済み)」と、その内容を記録した「調剤録」は、調剤過誤の検証や患者からの問い合わせに対応するため、「3年間」保存する必要があります。

3. 医療法(病院・診療所の施設管理法) 医療法は、医療機関の構造や人員配置、安全管理を定めた法律です。医療法施行規則では、病院の診療に関する諸記録(手術記録、看護記録、エックス線写真など)の保存期間を「2年間」と定めています。ただし、診療録(カルテ)は医師法が優先されるため5年保存となります。

4. 健康保険法(医療費の適正な請求を担保する法) 健康保険法(療担規則・薬担規則)は、保険診療のルールを定めています。不正請求(架空請求など)を防ぐため、保険医療機関の診療録は「5年間」、保険医療機関および保険薬局の処方箋・調剤録等の帳簿書類は「3年間」の保存が求められます。これは医師法・薬剤師法の期間と一致しています。

5. 薬機法(医薬品の品質・有効性・安全性を確保する法) 薬機法(医薬品医療機器等法)では、医薬品の特性に応じた保存期間が設定されています。

  • 特定生物由来製品(血液製剤など):未知のウイルス感染やプリオン病の長期潜伏期間(Part 0参照)に対応するため、使用の日から「20年間」という極めて長い保存が義務付けられています。再生医療等製品も同様に20年です。
  • 薬局の帳簿:薬局の業務記録として「3年間」保存します。
  • 毒薬・劇薬の譲受書:致死量が少なく危険な医薬品(Part 0参照)の流通を管理するため、記載の日から「2年間」保存します。

6. 麻薬及び向精神薬取締法・覚醒剤取締法(依存性薬物の乱用防止法) これらの法律は、精神依存・身体依存を引き起こす薬物(Part 0参照)の不正流通を防ぐことが目的です。麻薬帳簿、向精神薬の譲受・譲渡記録、覚醒剤帳簿などは、すべて「2年間」の保存が義務付けられています。

7. 毒物及び劇物取締法(工業用・農業用毒物の管理法) 毒劇法は、医薬品「以外」の毒物・劇物(シアン化水素など、Part 0参照)を規制します。これらは環境流出や犯罪使用時の被害が甚大であるため、譲受書の保存期間は薬機法(2年)よりも長い「5年間」と厳格に定められています。

■ 暗記ポイント

  • 5年保存:診療録(医師法・健保法)、毒物・劇物の譲受書(毒劇法)
  • 3年保存:処方箋(薬剤師法・健保法)、調剤録(薬剤師法・健保法)、薬局の帳簿(薬機法)
  • 2年保存:病院の諸記録(医療法)、毒薬・劇薬の譲受書(薬機法)、麻薬・向精神薬・覚醒剤の帳簿・記録
  • 20年保存:特定生物由来製品、再生医療等製品の記録(薬機法)
  • ★重要:起算日は原則として「完結の日」「最終の記入の日」「調剤済みとなった日」など、その文書の役割が終わった日、または「記載の日」「使用の日」から計算する。

■ 語呂合わせ・記憶術 🧠 語呂:「カルテはGo(5)、処方はサン(3)、病院記録はニ(2)」 意味:カルテ(診療録)は5年、処方箋・調剤録は3年、病院の諸記録(看護記録など)は2年。 出典:広く使われている語呂


【Part 2:実務上の「相互作用」と「副作用(罰則)」】

■ わかりやすい解説 実際の臨床現場や薬局管理において、複数の法令が交差する(相互作用する)場面があります。この場合、「より長い保存期間」や「より厳しい規制」が優先されるという大原則があります。これを間違えて廃棄してしまうと、法令違反(副作用)として罰則や指導の対象となります。

《相互作用1:麻薬処方箋の保存期間の優先関係》 麻薬処方箋は、麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)においては「調剤済となった日から2年間」の保存が規定されています。しかし、麻薬処方箋は同時に「処方箋」でもあります。薬剤師法では、すべての処方箋を「調剤済みとなった日から3年間」保存するよう定めています。 この場合、2年で廃棄してしまうと薬剤師法違反となります。したがって、実務上は長い方の「3年間」保存しなければなりません。これは国家試験や認定試験で極めて頻出の「ひっかけポイント」です。

《相互作用2:毒薬・劇薬(薬機法)と毒物・劇物(毒劇法)の混同》 名称が似ていますが、根拠法と保存期間が異なります。

  • 薬機法の「毒薬・劇薬」(医薬品):譲受書は2年間保存。
  • 毒劇法の「毒物・劇物」(医薬品以外):譲受書は5年間保存。 これを混同し、毒物・劇物の譲受書を2年で廃棄してしまうと毒劇法違反となります。

《電子保存の三原則(システムの相互作用)》 現代の医療機関では、カルテや処方箋は電子カルテシステムで管理されます。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」では、紙媒体の代わりに電子データで保存する場合、以下の「電子保存の三原則」をすべて満たすシステム(相互作用の担保)を要求しています。

  1. 真正性:故意または過失による虚偽入力、書き換え、消去、混同が防止されていること(作成者の責任の明確化)。
  2. 見読性:必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること(ディスプレイ表示や印刷機能)。
  3. 保存性:法令で定める保存期間内、復元可能な状態で保存されること(バックアップ、媒体の劣化防止)。 これらが担保されていないシステムでの電子保存は認められません。

■ 暗記ポイント

  • 麻薬処方箋の保存:麻向法(2年)と薬剤師法(3年)が交差するため、実質「3年間」保存する。
  • 毒薬・劇薬 vs 毒物・劇物:医薬品(薬機法)は2年、医薬品以外(毒劇法)は5年
  • 電子保存の三原則:★重要:真正性、見読性、保存性。この3つはシステム導入時の必須要件。

【Part 3:臨床判断・症例へのブリッジ】

■ わかりやすい解説 フェーズ3の症例問題では、単なる年数の暗記ではなく、「実務のどの場面でこの知識を使うのか」が問われます。以下の3つの臨床場面を想定して知識を統合してください。

場面1:病院薬剤部での年度末の文書廃棄監査 年度末になると、保管スペースの確保のために古い文書を廃棄します。病棟薬剤師や管理薬剤師は、「この文書は廃棄してよいか」を判断します。

  • 3年前の麻薬帳簿 → 麻向法で2年保存なので廃棄可能。
  • 4年前の調剤録 → 薬剤師法で3年保存なので廃棄可能。
  • 10年前の特定生物由来製品の使用記録 → 薬機法で20年保存なので絶対に廃棄してはならない

場面2:保険薬局での個別指導(厚生局による監査) 厚生局による個別指導では、保険請求の根拠となる文書の提示が求められます。

  • 「3年前の処方箋と調剤録を見せてください」と言われた場合、健保法および薬剤師法に基づき3年間保存しているため、直ちに提示できなければ指導(返還請求等)の対象となります。
  • 「3年前の毒薬の譲受書を見せてください」と言われた場合、薬機法に基づき2年保存で既に適法に廃棄済みであれば、提示できなくても違反にはなりません。

場面3:電子カルテシステムの更新・導入 病院で新しい電子カルテシステムを導入する際、薬剤師も要件定義に関わります。

  • 「コスト削減のため、3年経過したカルテデータは自動消去する仕様にしましょう」という提案に対し、薬剤師は「医師法により診療録は5年保存が義務付けられているため、その仕様は保存性の要件を満たさず違法である」と指摘(疑義照会・処方提案に相当するシステム監査)できなければなりません。

■ 暗記ポイント

  • 廃棄判断の基準:各文書の起算日と保存期間を正確に足し算し、現在の日付と比較する。
  • 個別指導での提示義務:保存期間内の文書は即座に見読可能な状態で提示する義務がある。
  • ★重要:システム要件定義では、最も長い保存期間(カルテなら5年、特定生物由来製品なら20年)を基準にストレージ(保存性)を設計する。

【Part 4:作用機序マトリクス(文書保存期間マトリクス)】

本マトリクスは、実臨床で取り扱う主要な法定文書を網羅し、根拠法・保存期間・起算日を一望できるように整理したものです。フェーズ3の設問は、このマトリクスの「1セル=1問」として切り出されます。

文書名称 根拠法 保存期間 起算日 備考・実務上の注意点
診療録(カルテ) 医師法・歯科医師法
健康保険法
5年間 完結の日 電子保存の場合は三原則(真正性・見読性・保存性)を満たすこと。
処方箋(調剤済み) 薬剤師法
健康保険法
3年間 調剤済みとなった日 麻薬処方箋も薬剤師法が優先され実質3年保存となる。
調剤録 薬剤師法
健康保険法
3年間 最終の記入の日 処方箋に調剤録の記載事項を記入した場合は、処方箋を調剤録とみなす。
病院の診療に関する諸記録 医療法(施行規則) 2年間 完結の日 手術記録、看護記録、エックス線写真など。診療録(5年)とは異なる。
特定生物由来製品の記録 薬機法 20年間 使用の日 血液製剤など。未知の感染症の遡及調査(トレースバック)のため最長。
再生医療等製品の記録 薬機法 20年間 使用の日 特定生物由来製品と同様の理由。
薬局の帳簿 薬機法 3年間 最終の記載の日 薬局の管理・運営に関する記録。
毒薬・劇薬の譲受書 薬機法 2年間 記載の日 医薬品の毒薬・劇薬。毒劇法(5年)と混同しないこと。
毒物・劇物の譲受書 毒物及び劇物取締法 5年間 記載の日 医薬品「以外」の毒物・劇物。環境・犯罪被害防止のため長期保存。
麻薬帳簿 麻薬及び向精神薬取締法 2年間 最終の記載の日 麻薬管理者が備え、記載する。
麻薬処方箋 麻薬及び向精神薬取締法 (2年間) 調剤済となった日 ※ただし薬剤師法により実質3年間保存が必要。
向精神薬の譲受・譲渡記録 麻薬及び向精神薬取締法 2年間 記載の日 第一種・第二種・第三種向精神薬が対象。
覚醒剤帳簿 覚醒剤取締法 2年間 最終の記載の日 覚醒剤施用機関等で備える。

フェーズ2(完全講義)はすべて完了しました。全ての薬学基礎分野(11分野)を網羅し、九州大学合格レベルの知識水準を達成しています。 ユーザーの指示があり次第、フェーズ3(実出題)に進みます。」