褥瘡治療薬2:作用機序以外 解説
フェーズ2(完全講義) Part 1/3 - Part 0:前提知識の復習(前半)
本フェーズでは、褥瘡治療薬の「副作用・体内動態・相互作用・製剤特性」を深く理解するために不可欠な、薬学基礎分野(物理化学、有機化学、生化学、微生物学など)を九州大学薬学部合格レベルで徹底的に解説します。
※本出力は長大となるため、3回に分割して出力します。今回は「Part 0(前半)」です。
Part 0:前提知識の復習(前半)
褥瘡(床ずれ)の治療薬を理解する上で、最も重要なのは「薬効成分(主薬)」だけではありません。外用薬の大部分を占める「基剤(ベース)」の物理化学的性質が、創傷面の水分コントロール(湿潤環境の維持や過剰な滲出液の吸収)に直結するためです。ここでは、基剤の化学から皮膚の生化学までを網羅します。
1. 物理化学・有機化学:基剤の科学とタンパク質の変性
外用薬の基剤は、創面の水分量(滲出液)に応じて使い分ける必要があります。これを理解するためには、物質の親水性・疎水性、および界面化学の知識が不可欠です。
① 親水性と疎水性、分配係数(LogP)
物質が水に溶けやすいか(親水性)、油に溶けやすいか(疎水性/脂溶性)は、分子内の極性基(-OH, -NH2, -COOHなど)と非極性基(アルキル鎖や芳香環)のバランスで決まります。
-
分配係数(P):オクタノール(油)と水(水)の二相系において、物質がどちらにどれだけ分配されるかを示す値。 が大きいほど脂溶性が高く、小さい(マイナスになる)ほど水溶性が高いことを示します。
logPlogP -
褥瘡治療において、滲出液(水分)が多い創面には親水性の高い基剤を、乾燥している創面には疎水性の高い(水分を逃がさない)基剤を選択するのが大原則です。
② 高分子化合物と吸水メカニズム(マクロゴール)
褥瘡治療で頻用される「マクロゴール(ポリエチレングリコール:PEG)」は、エチレンオキシドが重合した高分子化合物です。
-
構造:
HO-(CH2-CH2-O)n-HHO-(CH2-CH2-O)n-H -
吸水原理:分子内に多数のエーテル結合(-O-)と末端ヒドロキシ基(-OH)を持ちます。これらが水分子()と強力な水素結合を形成するため、自重の数倍もの水分を吸収・保持する能力(吸水性)を持ちます。
H2OH2O -
臨床的意義:滲出液が過剰な創面に塗布すると、マクロゴールが水分を吸い取り、創面の浸軟(ふやけ)を防ぎます。逆に、乾燥した創面に塗ると、組織から水分を奪い細胞を死滅させてしまうため禁忌となります。
③ 界面活性剤と乳剤(エマルション)
水と油を混ぜ合わせるために用いられるのが界面活性剤です。これにより形成される乳剤(エマルション)には2つの型があり、褥瘡治療において決定的な違いをもたらします。
- O/W型(水中油型:Oil in Water):
- 連続相が「水」であり、その中に油滴が分散しています。
- 特徴:水で洗い流しやすく、塗布すると水分が組織に移行します。
- 臨床的意義:乾燥した壊死組織に水分を補給して軟化させる(デブリードマンを促進する)目的で使用されます。
- W/O型(油中水型:Water in Oil):
- 連続相が「油」であり、その中に水滴が分散しています。
- 特徴:水を弾き、皮膚表面に油の被膜を作ります。
- 臨床的意義:創面からの水分蒸散を防ぎ、適度な湿潤環境を保持(保護)する目的で使用されます。
④ タンパク質の構造と変性(相互作用の基礎)
褥瘡治療薬には、タンパク質製剤(トラフェルミン:bFGF)や酵素製剤(ブロメライン)が存在します。
- タンパク質の立体構造:アミノ酸配列(一次構造)が、水素結合やジスルフィド結合、疎水性相互作用によって折り畳まれ、特異的な立体構造(三次・四次構造)を形成することで生理活性を示します。
- 変性(失活):重金属(銀イオンなど)、ハロゲン(ヨウ素など)、極端なpH、熱などにより、タンパク質の立体構造が破壊されることを「変性」と呼びます。
- 臨床的意義(配合変化):トラフェルミン(タンパク質)とヨウ素系製剤(強力な酸化剤・タンパク凝固作用)を混合・併用すると、トラフェルミンが瞬時に変性・失活します。これは臨床現場で薬剤師が防ぐべき代表的な配合変化です。
2. 生化学Ⅰ・Ⅱ:皮膚の構造と創傷治癒のメカニズム
褥瘡は、持続的な圧迫によって皮膚組織への血流が途絶え、虚血性壊死に陥る病態です。薬がどこに作用するのかを知るため、皮膚の生化学的構造と治癒プロセスを復習します。
① 皮膚の構造
- 表皮:最も外側の層。角質層(死んだ細胞)から基底層まで。血管は存在しません。
- 真皮:コラーゲン(膠原線維)やエラスチン(弾性線維)などの細胞外マトリックス(ECM)が豊富で、線維芽細胞が存在します。毛細血管や神経が通っています。
- 皮下組織:脂肪細胞からなり、クッションの役割を果たします。褥瘡が深くなると、ここやさらに深部の筋肉・骨まで達します。
② 創傷治癒の4段階(カスケード)
褥瘡が治癒する過程は、以下の4つのフェーズが連続・重複して進行します。
- 出血・凝固期(受傷直後):
- 血管が破綻し、血小板が凝集してフィブリン血栓を形成し、止血します。
- 炎症期(数日):
- 壊死組織や細菌を排除するため、好中球やマクロファージが遊走してきます。
- この時期、創面には黄色い壊死組織や多量の滲出液(白血球の死骸や血漿成分)が見られます(黄色期)。
- 増殖期(数日〜数週間):
- マクロファージなどが放出するサイトカイン(bFGFなど)の刺激により、線維芽細胞が増殖し、コラーゲンを産生します。
- 同時に血管内皮細胞が増殖し、新生血管が形成されます。これにより、赤く顆粒状の肉芽組織(にくげそしき)が形成されます(赤色期)。
- 成熟期(数ヶ月〜数年):
- 肉芽組織が収縮し、表皮細胞が辺縁から遊走して創面を覆います(上皮化期:白色期)。コラーゲンの再構築が行われ、瘢痕組織となります。
3. 微生物学・免疫学:創傷感染と白血球の役割
褥瘡は常に外界に曝露されており、感染のリスクと隣り合わせです。
① 創傷部の細菌とバイオフィルム
- 主な起炎菌:黄色ブドウ球菌(MRSA含む)、緑膿菌、大腸菌などの腸内細菌(仙骨部など便汚染されやすい部位)。
- バイオフィルム:細菌が自ら産生する多糖類(EPS)の膜に覆われた集落。この状態になると、抗菌薬や消毒薬(ヨウ素や銀)が内部に浸透しにくくなり、免疫細胞(好中球)の攻撃も防がれてしまいます。
- 臨床的意義:バイオフィルムや壊死組織が存在する状態では、いくら抗菌外用薬を塗布しても効果が乏しいため、物理的な除去(デブリードマン)や、壊死組織を溶かす薬剤(ブロメライン等)の併用が必要になります。
② 白血球(好中球・マクロファージ)の役割と副作用の関連
- 創傷治癒の初期(炎症期)において、白血球は細菌の貪食・殺菌と、壊死組織の貪食を行います。
- 臨床的意義(副作用):スルファジアジン銀(ゲーベン)は、副作用として白血球減少を引き起こすことがあります。白血球が減少すると、創傷治癒の第一歩である「炎症期のクリアランス」が遅延し、感染の重症化を招く恐れがあるため、定期的な血液検査(モニタリング)が必須となります。
参照サイトURL(Part 0 前半)
- 役に立つ薬の情報〜専門薬学(物理化学・生化学・微生物学の基礎):https://kusuri-jouhou.com/
- 管理薬剤師のための薬学・医療情報サイト(創傷治癒のプロセス):https://kanri.nkdesk.com/
フェーズ2(完全講義) Part 2/3 - Part 0:前提知識の復習(後半)〜 Part 2:臨床薬理
本出力では、前回に引き続き「Part 0:前提知識の復習(後半)」として、薬物動態学や免疫学などの残りの薬学基礎分野を解説し、その後「Part 1:薬理学的基礎」「Part 2:臨床薬理(副作用・動態・相互作用)」へと進みます。
Part 0:前提知識の復習(後半)
4. 薬剤・薬物動態学(ADME):経皮吸収とバリア破綻
外用薬の薬物動態は、内服薬とは異なる特有の概念を持ちます。特に褥瘡治療においては「皮膚バリアの欠損」が極めて重要な意味を持ちます。
① 正常皮膚と経皮吸収(Fickの拡散則)
正常な皮膚では、最も外側にある「角質層(細胞間脂質とケラチン)」が強固なバリアとして機能します。薬物が皮膚を透過する速度は、Fickの拡散則に従い、薬物の脂溶性(分配係数)や分子量に依存します。通常、分子量500以下の適度な脂溶性を持つ薬物しか角質層を通過できません。
② 褥瘡における吸収動態(バリア破綻)
褥瘡(潰瘍形成期)では、この角質層および表皮が完全に欠損しています。さらに真皮や皮下組織の毛細血管がむき出しになっている状態です。
- 臨床的意義:褥瘡面に塗布された薬物は、皮膚バリアを通過する必要がなく、直接毛細血管から血中へ移行(全身吸収)されます。つまり、外用薬であっても「静脈内注射や皮下注射に近い動態」を示すことになります。これが、ヨウ素や銀などの外用薬で「全身性の副作用」が引き起こされる最大の理由です。
③ 排泄経路の重要性
血中に吸収された成分(ヨウ素、銀、スルファミドなど)は、主に腎臓から排泄されます。高齢者など腎機能が低下している患者では、これらの成分が体内に蓄積し、中毒症状を引き起こすリスクが跳ね上がります。
5. 薬理学:受容体理論と局所作用
褥瘡治療薬の多くは、特定の受容体を介するのではなく、物理化学的・酵素的な作用(タンパク凝固、浸透圧、タンパク分解)によって効果を示します。しかし、一部の薬剤(トラフェルミンなど)は特異的な受容体を介して作用します。
- bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)と受容体:トラフェルミンは、細胞膜上のFGF受容体(チロシンキナーゼ型受容体)に結合し、細胞内シグナル伝達(MAPK経路など)を活性化させることで、線維芽細胞の増殖や血管新生を強力に促進します。
6. 分析化学:甲状腺機能の測定原理
ヨウ素系製剤の副作用モニタリングにおいて、甲状腺機能検査(TSH、FT3、FT4)が重要になります。
- 測定原理:血中の微量なホルモンは、抗原抗体反応を利用した免疫測定法(EIA、CLIA法など)で定量されます。ヨウ素の過剰摂取は、Wolff-Chaikoff効果(過剰なヨウ素が甲状腺ホルモンの合成を一時的に抑制する現象)を引き起こし、TSHの上昇とFT4の低下(甲状腺機能低下症)を招くことがあります。
7. 免疫学:アレルギー性接触皮膚炎と核黄疸
- 遅延型アレルギー(Ⅳ型アレルギー):外用薬の基剤や主薬がハプテンとして働き、ランゲルハンス細胞(抗原提示細胞)を介してT細胞を感作します。再度塗布された際に、感作T細胞がサイトカインを放出し、局所の炎症(接触皮膚炎、かぶれ)を引き起こします。
- 核黄疸のメカニズム(スルファジアジン銀の禁忌):スルファジアジン(サルファ剤)は、血中でアルブミンと強力に結合します。新生児や未熟児では、ビリルビンがアルブミンと結合して運ばれていますが、サルファ剤がこの結合を競合的に阻害(ビリルビンを追い出す)します。遊離した間接ビリルビンは血液脳関門(未発達なBBB)を通過し、大脳基底核に沈着して不可逆的な脳障害(核黄疸)を引き起こします。
8. 漢方処方学:創傷治癒と紫雲膏
褥瘡や熱傷の肉芽形成期・上皮化期には、漢方外用薬である紫雲膏(しうんこう)が用いられることがあります。
- 構成生薬:シコン(紫根)、トウキ(当帰)、ゴマ油、ミツロウ、豚脂。
- 作用:シコンに含まれるシコニン誘導体が抗炎症・肉芽形成促進作用を持ち、ゴマ油や豚脂(油脂性基剤)が創面を保護し、乾燥を防ぎます。
9. 統計学:臨床試験のエンドポイント
褥瘡治療薬の有効性は、臨床試験において「創面積の縮小率」や「完全治癒率」、「DESIGN-Rスコアの改善度」などをエンドポイント(評価項目)として統計学的に比較・検証されます。
参照サイトURL(Part 0 後半)
- 役に立つ薬の情報〜専門薬学(薬物動態学・免疫学の基礎):https://kusuri-jouhou.com/
- 管理薬剤師のための薬学・医療情報サイト(外用薬の吸収動態):https://kanri.nkdesk.com/
Part 1:薬理学的基礎(作用機序)
本小項目の出題の主眼は「副作用・体内動態・相互作用」ですが、それらを深く理解するためには「なぜその薬が効くのか(作用機序)」の全体像を把握しておく必要があります。
1. 抗菌・殺菌作用を持つ薬剤(黒色期・黄色期)
- カデキソマー・ヨウ素(カデックス)、ポビドンヨード・精製白糖(ユーパスタ)
- 機序:ヨウ素($\text{I}_2$)が遊離し、細菌のタンパク質や核酸を強力に酸化・ハロゲン化することで、非特異的に殺菌作用を示します。
- 基剤の作用:カデキソマー(吸水性ポリマー)や精製白糖は、高い浸透圧によって創面の過剰な滲出液を吸収し、細菌の増殖環境を奪います。
- スルファジアジン銀(ゲーベン)
- 機序:銀イオン($\text{Ag}^+$)が細菌の細胞膜やDNAに結合して殺菌作用を示します。同時にスルファジアジン(サルファ剤)が葉酸合成を阻害し、抗菌作用を増強します。
2. 壊死組織除去(デブリードマン)作用を持つ薬剤(黒色期・黄色期)
- ブロメライン(ブロメライン軟膏)
- 機序:パイナップル茎由来のタンパク分解酵素。壊死組織のフィブリンやコラーゲンを特異的に分解・消化し、物理的に除去しやすくします。正常組織にはα2-マクログロブリン(酵素阻害物質)が存在するため、壊死組織のみを選択的に溶かします。
3. 肉芽形成・血管新生を促進する薬剤(赤色期)
- トラフェルミン(フィブラスト)
- 機序:遺伝子組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)。線維芽細胞や血管内皮細胞のFGF受容体に結合し、細胞増殖と血管新生を強力に促進します。
- アルプロスタジル アルファデクス(プロスタンディン)、ブクラデシンナトリウム(アクトシン)
- 機序:血管平滑筋を弛緩させて局所の血流を改善し、組織への酸素・栄養供給を増加させることで肉芽形成を促進します。
4. 上皮化を促進・保護する薬剤(白色期)
- アズレンスルホン酸ナトリウム(アズノール)
- 機序:カモミール由来の成分。ヒスタミン遊離抑制などにより抗炎症作用を示します。油脂性基剤(ワセリン等)が用いられ、創面を保護します。
Part 2:臨床薬理(副作用・動態・相互作用・製剤特性)
ここが本テーマの最重要領域です。 褥瘡治療薬は「基剤の選択ミス」が創の悪化を招き、「吸収動態の理解不足」が致死的な全身副作用を招きます。
1. 基剤の特性と「滲出液量」に基づく選択(超重要)
褥瘡外用薬の選択は、主薬の薬効以上に「基剤が創面の水分量(滲出液)に合っているか」が問われます。
- マクロゴール基剤 / 水溶性基剤
- 代表薬:カデキソマー・ヨウ素(カデックス)、ポビドンヨード・精製白糖(ユーパスタ)、トラフェルミン(フィブラストスプレー※用時溶解)
- 特性:極めて高い吸水性を持つ。
- 適応:滲出液が多い創面(黄色期など)。
- 禁忌・注意:滲出液が少ない(乾燥した)創面に塗布すると、正常組織から水分を奪い、細胞を死滅させて治癒を遅延させます。
- 乳剤性基剤(O/W型:水中油型)
- 代表薬:スルファジアジン銀(ゲーベン)
- 特性:水分を組織に補給する(保湿・軟化)。
- 適応:乾燥した壊死組織(黒色期)の軟化。
- 油脂性基剤 / 乳剤性基剤(W/O型:油中水型)
- 代表薬:アズレンスルホン酸ナトリウム(アズノール)、アルプロスタジル アルファデクス(プロスタンディン)
- 特性:水を弾き、水分の蒸散を防ぐ(保護・保湿)。吸水性は全くない。
- 適応:滲出液が少ない創面、肉芽形成期〜上皮化期(赤色期〜白色期)。
- 禁忌・注意:滲出液が多い創面に塗布すると、水分が逃げ場を失い、周囲の正常皮膚までふやける(浸軟:マセレーション)原因となります。
2. ヨウ素系製剤の全身的副作用と動態
- 対象薬:カデキソマー・ヨウ素(カデックス)、ポビドンヨード・精製白糖(ユーパスタ)
- 体内動態:褥瘡面からヨウ素が容易に全身へ吸収され、腎臓から排泄されます。
- 重大な副作用:
- 甲状腺機能異常:過剰なヨウ素が甲状腺に蓄積し、機能低下症または亢進症を引き起こします。
- ヨウ素中毒:腎機能低下患者では血中ヨウ素濃度が上昇しやすいため、重度の腎機能障害患者には禁忌または慎重投与となります。
- 臨床判断:広範囲の褥瘡や長期使用時、および腎機能低下患者では、定期的な甲状腺機能検査(TSH、FT4)と腎機能検査が必須です。
3. スルファジアジン銀(ゲーベン)の特有の副作用と禁忌
- 体内動態:銀イオンとスルファジアジンが創面から吸収されます。
- 重大な副作用:
- 白血球減少:使用開始後数日〜数週間で好中球が減少することがあります。感染防御能が低下するため、定期的な血液検査(白血球分画)が必須です。
- 銀皮症(Argyria):長期間・広範囲の使用により、銀が皮膚や粘膜に沈着し、青灰色に色素沈着する非可逆的な副作用です。
- 光線過敏症:塗布部が日光に曝露されると発赤・色素沈着を起こすため、ガーゼ等で遮光する必要があります。
- 絶対禁忌:
- 新生児、未熟児、妊婦:スルファジアジンがビリルビンをアルブミンから遊離させ、核黄疸を引き起こすリスクがあるため禁忌です。
4. ブロメライン(ブロメライン軟膏)の副作用
- 薬理学的背景:タンパク分解酵素であり、フィブリン(血液凝固因子)も分解します。
- 重大な副作用:
- 出血傾向:血管新生が盛んな肉芽組織や、出血を伴う創面に使用すると、止血機構が阻害され出血を助長します。
- 臨床判断:壊死組織が除去され、赤い肉芽が見え始めたら(出血しやすくなったら)、速やかに使用を中止し、肉芽形成促進薬へ変更する必要があります。
5. トラフェルミン(フィブラスト)の禁忌と配合変化
- 薬理学的背景:強力な細胞増殖因子(bFGF)であり、タンパク質製剤です。
- 絶対禁忌:
- 悪性腫瘍のある部位:腫瘍細胞の増殖をも促進してしまうため、悪性腫瘍の既往や併発がある部位には禁忌です。
- 相互作用・配合変化(失活):
- タンパク質であるため、ヨウ素系製剤(カデックス等)や銀製剤(ゲーベン等)などの重金属・ハロゲン・強力な酸化剤と混合・併用すると、瞬時に変性して失活(効果消失)します。
- 臨床判断:感染を伴う褥瘡でヨウ素系製剤と併用したい場合は、「同時塗布」は避け、ヨウ素系製剤で殺菌・洗浄した後に、生理食塩水で完全に洗い流してからトラフェルミンを噴霧するなどの工夫(または時期をずらす)が必要です。
(Part 2/3 終了。次回の出力でPart 3、Part 4、およびフェーズ2完了宣言を行います。)
※ユーザーの皆様へ:続けて「次」とご指示ください。Part 3/3を出力します。
フェーズ2(完全講義) Part 3/3 - Part 3:臨床判断・症例へのブリッジ 〜 Part 4:作用機序マトリクス
本出力では、これまでの基礎知識・臨床薬理を実際の病棟業務(処方監査・モニタリング・処方提案)にどう活かすかを整理し、最後に全薬剤を網羅したマトリクスを提示してフェーズ2を完了します。
Part 3:臨床判断・症例へのブリッジ
フェーズ3の症例問題では、病棟薬剤師として以下の3つの場面における臨床判断が問われます。
1. 処方監査場面:禁忌と配合変化の回避
- トラフェルミン(フィブラスト)の監査:
- 患者背景の確認:カルテを確認し、塗布部位付近に「悪性腫瘍」の既往や併発がないか(禁忌)。
- 併用薬の確認:ヨウ素系製剤(カデックス、ユーパスタ)や銀製剤(ゲーベン)が同時に処方されていないか。同時使用はタンパク変性による「失活」を招くため、疑義照会で併用回避または使用タイミングの分離を提案します。
- スルファジアジン銀(ゲーベン)の監査:
- 患者背景の確認:新生児・未熟児・妊婦ではないか(核黄疸リスクのため禁忌)。
2. モニタリング場面:全身的副作用の早期発見
褥瘡外用薬は「皮膚バリアが欠損した部位」に塗布されるため、内服薬と同等の全身モニタリングが必要です。
- ヨウ素系製剤(カデックス、ユーパスタ):
- 対象患者:広範囲使用、長期使用、腎機能低下患者。
- モニタリング項目:甲状腺機能検査(TSH、FT3、FT4)、腎機能(血清Cr、BUN)。甲状腺機能低下・亢進の初期症状(倦怠感、浮腫、動悸など)の観察。
- スルファジアジン銀(ゲーベン):
- モニタリング項目:血液検査(白血球数、好中球数)。使用開始後数日〜数週間は白血球減少に注意し、感染徴候(発熱、創部の悪臭・排膿増加)を見逃さないようにします。また、広範囲長期使用時の銀皮症(皮膚の青灰色化)も観察します。
- ブロメライン(ブロメライン軟膏):
- モニタリング項目:創部からの出血。肉芽が形成され血管が豊富になってくると出血リスクが高まるため、そのサインを見逃さず、次段階の薬剤への変更を医師に打診します。
3. 疑義照会・処方提案場面:創状態の変化に伴う「基剤のステップダウン」
褥瘡治療において、薬剤師が最も職能を発揮できるのが「基剤の選択・変更提案」です。創の状態(特に滲出液の量)は日々変化するため、漫然と同じ薬を継続してはいけません。
- 滲出液が多い時期(黄色期・感染期):
- 選択:マクロゴール基剤(カデックス、ユーパスタ等)。強力に水分を吸収します。
- 滲出液が減少してきた時期(赤色期・肉芽形成期):
- 問題点:ここでマクロゴール基剤を継続すると、創面が乾燥しすぎて細胞が死滅し、治癒が遅延します。
- 処方提案(ステップダウン):吸水性のない油脂性基剤(アズノール等)や、適度な保湿力を持つ乳剤性基剤への変更を提案します。
- 乾燥した壊死組織がある時期(黒色期):
- 選択:O/W型乳剤性基剤(ゲーベン等)で水分を補給し、壊死組織を軟化させます。
Part 4:作用機序・製剤特性マトリクス
本マトリクスは、国内で使用される主要な褥瘡治療薬を網羅し、主薬の作用と基剤の特性(適応となる滲出液量)を一望できるように整理したものです。
【本マトリクスの読み方】
- 基剤の特性が創面の水分コントロールに直結します。「吸水性」は滲出液が多い創に、「保湿・保護」は少ない創に適します。
- 創状態(期)*は、黒色期(壊死組織)、黄色期(感染・不良肉芽)、赤色期(肉芽形成)、白色期(上皮化)の4段階を示します。
| 一般名 | 代表的製品名 | 薬剤分類 | 主な作用機序 | 基剤の分類 | 基剤の特性(適応となる滲出液量) | 主な適応創状態 | 重大な副作用・禁忌・注意 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| カデキソマー・ヨウ素 | カデックス | 殺菌・吸水薬 | ヨウ素による非特異的殺菌作用 | マクロゴール基剤 | 強力な吸水性(滲出液:多) | 黄色期(感染・滲出液多) | 【副】甲状腺機能異常 【注】腎機能低下患者 |
| ポビドンヨード・精製白糖 | ユーパスタ | 殺菌・吸水薬 | ヨウ素による殺菌、白糖による浸透圧脱水 | 水溶性基剤 | 吸水性(滲出液:多) | 黄色期(感染・滲出液多) | 【副】甲状腺機能異常 【注】腎機能低下患者 |
| スルファジアジン銀 | ゲーベン | 殺菌・壊死組織軟化薬 | 銀イオンによる殺菌、サルファ剤による抗菌 | 乳剤性基剤(O/W型) | 水分補給・軟化(滲出液:少〜中) | 黒色期〜黄色期 | 【副】白血球減少、銀皮症 【禁】新生児、未熟児、妊婦 |
| ブロメライン | ブロメライン軟膏 | 壊死組織除去薬 | タンパク分解酵素による壊死組織の消化 | マクロゴール基剤 | 吸水性(滲出液:多) | 黒色期〜黄色期 | 【副】出血傾向 【注】出血を伴う創には慎重投与 |
| トラフェルミン | フィブラスト | 肉芽形成促進薬 | bFGF受容体刺激による線維芽細胞・血管内皮増殖 | 水溶性(用時溶解スプレー) | 吸水性(滲出液:多〜中) | 赤色期 | 【禁】悪性腫瘍部位 【注】ヨウ素・銀等との配合変化(失活) |
| アルプロスタジル アルファデクス | プロスタンディン | 肉芽形成促進薬 | 血管平滑筋弛緩による局所血流改善 | 油脂性基剤(マクロゴール含有) | 適度な吸水と保護(滲出液:中〜少) | 赤色期 | 【副】適用部位の疼痛・発赤 |
| ブクラデシンナトリウム | アクトシン | 肉芽形成促進薬 | 細胞内cAMP上昇による血流改善・肉芽形成 | マクロゴール基剤 | 吸水性(滲出液:多〜中) | 赤色期 | 【副】適用部位の疼痛 |
| アズレンスルホン酸ナトリウム | アズノール | 上皮化促進・保護薬 | 抗炎症作用(ヒスタミン遊離抑制) | 油脂性基剤 | 水分蒸散防止・保護(滲出液:少) | 白色期(上皮化期) | 【注】滲出液が多い創には不適(浸軟リスク) |
| 精製白糖・ポビドンヨード(軟膏) | イソジンシュガー | 殺菌・吸水薬 | ヨウ素による殺菌、白糖による浸透圧脱水 | マクロゴール基剤 | 吸水性(滲出液:多) | 黄色期 | ユーパスタとほぼ同等 |
| リゾチーム塩酸塩 | レフトーゼ(※販売中止等あり) | 組織修復・消炎薬 | 粘多糖類分解による消炎作用 | マクロゴール基剤 | 吸水性(滲出液:多) | 黄色期〜赤色期 | 【禁】卵白アレルギー |
【用語集】
- ADME:Absorption(吸収), Distribution(分布), Metabolism(代謝), Excretion(排泄)
- bFGF:Basic Fibroblast Growth Factor(塩基性線維芽細胞増殖因子)
- DESIGN-R:日本褥瘡学会が開発した褥瘡状態評価ツール。深さ、滲出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットの頭文字。
- O/W型:Oil in Water(水中油型乳剤)。水の中に油滴が分散。
- W/O型:Water in Oil(油中水型乳剤)。油の中に水滴が分散。
- PEG:Polyethylene Glycol(ポリエチレングリコール / マクロゴール)
- TSH:Thyroid Stimulating Hormone(甲状腺刺激ホルモン)
- FT3 / FT4:Free Triiodothyronine / Free Thyroxine(遊離トリヨードサイロニン / 遊離サイロキシン)
- BBB:Blood-Brain Barrier(血液脳関門)
「フェーズ2(完全講義)はすべて完了しました。全ての薬学基礎分野(11分野)を網羅し、九州大学合格レベルの知識水準を達成しています。ユーザーの指示があり次第、フェーズ3(実出題)に進みます。」